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無銘のすらいむの独言

昔ちょっと有名になったスライムの話をしたいと思う。

彼はあるとき、失策をここぞとばかりに非難されることとなった。もちろん彼にも非があることは疑いようはないないのだが、彼を特に強く責めたのは彼の存在を疎ましく思う人間であった。

不幸にも間が悪く余裕のなかったことも重なり、彼は誰かを殺したいと思うほどに追い詰められることとなる。

そして彼は、他人を殺めるという発想に至った自分自身に絶望し、自殺を試みた。だが、彼自身はそれまで名乗っていた名前を捨てて、今も生命活動を続けている。

ある国民的漫画のキャラクターがこう言っていたことがある。
「お前(実際はキャラ名)を殺してぼくも死ぬ」

多分あのときはそういうメンタリティだったのだろうと思う。
他人を殺したくなるほどの衝動を抑えきれず、唯一殺しても罪に問われない自分自身の主人格とも言える存在を殺す事にしたのだろう。

それまでの付き合いの殆どを破棄し、それまでの趣味の殆どを捨てた。しかし、それまでの彼の歩みは彼の方向性や性格・指向を全て捨てることを赦さなかった。いくら人格を殺したとは言え、結局は同一人物である。捨てた方向を向いては、その方向に歩き出せない立ち止まえい自分を呪うことしかできなかった。

彼を赦す者は誰なのか。
少なくとも彼を追い込んだものが彼を釈すつもりは全くなく、彼自身も自分を釈すつもりはないようだ。

では今もあの頃の悪夢を見ている彼を赦す者は誰なのか。

全く別の話であるが。

人間になりたいと思っていたスライムは、人間になるチャンスを前に、しかし自分のことよりも他者の幸せを願ったという。

かの先人(先スライム?)のようにあれれば、彼もそうなることはなかったのだろうか。

そういう考え